「人の行い 孝より大なるはなし」

親孝行に勝る行いは無いですよと,聞こえてきます。
両親が喜んでくれることは,たいてい良い行いです。
両親を悲しませる行いは,もちろん悪い行いとなります。
『孝経(こうきょう)』の一節です。

何かするときに,両親がどう思うだろうかと考えるのは,実に有益なことです。
判断に迷ったとき,御両親を思い浮かべれば,そこに道が見えてきます。

親孝行に関わる言葉は,「仰げば尊し」にも記されています。
「身を立て名を揚げ やよ励めよ」
この部分です。

「身を立て名を揚げ」は,孝の教えを記した『孝経』からの言葉です。

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身体髪膚,これを父母に受く。あえて毀傷(きしょう)せざるは,孝の始めなり。
身を立て道を行い,名を後世に揚げ,もって父母を顕すは,孝の終わりなり。
それ孝は親に事(つか)うるに始まり,君に事うるに中ごろし,身を立つるに終わる。
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「身を立てる」というのは,親孝行を第一とし,世の中に出たら,長たる人物を親同様に大切にする,そういう生き方を指します。
「孝の道」を歩む。その姿勢が「身を立てる」ことなのです。
そういう孝行者なら,自然と立派な人だとの名声が揚がってきます。
これが「名を揚げる」です。揚げようと思ってあげるのではなく,自然に揚がっていくのです。
それがお父さんお母さんの誉れともなる,このような意味です。

ですので,無理して狭くとれば,いわゆる「立身出世」とも言えますが,昇級を目的として,そこへ向かって「お目々ギラギラ」となる教えではありません。
親を大切にする心をもって人生を歩むことを教えた尊い言葉です。

私も若い頃は,「身を立て名を揚げ」を,「立身出世」と思いこんでいました。
古典から学ばず,字面だけで解釈していたからです。
表面の知識を根拠に,大いばりで反民主主義の歌と思いこんでいました。
実に情けないことです。
どんな時代であれ,親孝行は褒め認められこそすれ,否定はされません。
主義主張も時代をも超える大切な教えです。