「戦戦兢兢(せんせんきょうきょう)」
広辞苑によれば,「おそれつつしむさま」であり,そこから派生した「びくびくしているさま」を言い表しています。

この言葉は,単独に成立している言葉ではありません。
後に続く言葉があります。

戦戦兢兢 深淵に臨むが如く
薄氷を履(ふ)むが如し

『春秋左氏伝』に,この部分が登場しています。
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たとえ小国でも侮っては侮ってはなりません。防備を怠ればたとえ多勢でもたのみにはなりません。
詩に,
戦戦兢兢・・・・薄氷を履むが如し
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ここを読んだとき,実に驚きました。
友達の城ヶ崎滋雄先生が,卒業式練習の指導で使っていた比喩だからです。

昨年度の城ヶ崎先生は,卒業学年の担任でした。
卒業式の練習で,子ども達の歩行が気になっていました。
普段より少しゆっくり歩んで欲しいと思っていたからです。
しかし,「ゆっくり」と言っても効果がないことはこれまでの体験で熟知しています。
どうしたものかと思っていたとき,フッと古武道の足の運びを思い出したそうです。
そうして,子ども達に言ったのが次の言葉です。

「薄い氷が張っています。
 それを割らないよう歩きなさい。」

すると,子ども達の歩き方は一変しました。
粛々と歩くようになったのです。

相手が小国でも,薄氷を踏むが如く慎重にと記した『左伝』は,今から2000年以上も前の話です。
同じ比喩を友人が古武道から導き出しました。
感動的な一瞬でした。

戦戦兢兢。
もともとは,『詩経』というすこぶる古い中国の詩です。
短い詩ですので,参考までに記します。

敢(あえ)て虎を暴(てうち)にせず 敢て河を馮(かちわた)らず
人はその一を知るも その他を知るなし
戦戦兢兢として
深淵に臨むが如く 薄氷を履むが如し

虎は手で倒そうとしない,河も歩いて渡ろうとしない。
人は一面を知っていても,その他の面を知らない。
何があるか分からないから,注意深く行うことだ。
深い淵に臨むように, 薄い氷を踏むように。