習字で墨を磨っている写真です。今の小学校では見ることのできない光景です。

 この写真は戦前の教師用指導書に載っていた写真です。 
 指導書ですから,微に入り細に入り,「こうするのがいいんですよ」と示されています。ありがたい書です。
 たとえば,墨は立てて磨るようにと示されていますが,買ったばかりの長い墨の場合は斜めにしても差し支えないと記されています。
 「基本を示し,時として例外も認める」という考え方です。
 「本来なら,こうあるべきだが,まあまあやむを得ませんな」と,許容のようであり,あきらめのようでもある,とても寛大な姿勢です。小学校の先生方は,何かあると,たいていこのように考えます。大きく道を外すことの無いよい考え方です。

 磨る時の動きも示されています。基本は楕円を描くように磨ります。せかせかと前後に動かすのは,ダメとされています。これは,おわかりですよね。心を落ち着ける時間だからです。落ち着いて磨ることが基本なのです。

 墨の持ち方も示されています。人差し指と中指が向こう側。こちら側に親指。こうなるように上から持ちます。
 でも,今はこの墨をする指導は無くなりました。墨汁を使う習字になったからです。

 硯の手前が「陸(おか)」,先の墨だまりを「海(うみ)」と呼びます。
 硯を運ぶ時には,「海」を向こうにし,少し下げるようにして,陸の両端を上からガパッとしっかりつかんで,運びます。
 これも今はスポイトで先に吸ってしまうので必要の無い指導になっています。

 文化が発達していくと,自然と指導も変わってきます。でも,習字で教える「心の落ち着き」は見失うわけにはいきません。
 「不易流行」ですね。