【横山験也のちょっと一休み】№.3558

菊池寛の『明治文明奇談』を少しずつ読んでいます。
明治政府が公文書を東京-京都間に送る飛脚費用が月額1500両。年額にすると1万8000両と計算し、その費用で欧米の郵便制度を日本に!と動き出したのが前島密です。

飛脚の1通の費用も載っていました。
公文書の配達は特別の仕立て便のため、東京-京都間を丸3日で配達しました。その1通分の費用は、だいたい20両から30両です。
これに、夜間の盗難予防のための人夫を1人増やすと一人につき35両増しとなります。

月額1500両ですから、公文書1通30両とすると、1か月に行き来する公文書の数は50通程度と思えます。
超高額で、公文書の行き来も抑え込まれていたのだろうなと思います。

ちょっと時代が違いますが、赤穂浪士の事の発端を告げた早飛脚は、さらに高額だったのだろうなと思います。

普通の人が利用する飛脚には、「早便」というのがあり、これが今の速達となります。東京-大阪間を7日か8日要したそうです。費用は1通400文~500文。かなり安いです。1両は4000文ですので、破格の安さです。
普通の「並便」は半月かかり、費用は200文~300文とのことです。

これを、前島密は東京-大阪間を40時間以内に配達させ、料金は1貫500文。飛脚が20㎏ぐらいの郵便物を背負って走ったそうです。まとめて運ぶ方法に切り替えたのですね。これが大変便利となったそうなのですが、読み手の私には、割高な気がしています。それが、今はハガキですと100円以下です。全国津々浦々で人々が利用したおかげですね。

こういう実際の運用の数字を見るだけでも、なかなかいい勉強になるのですが、この本の面白いところは、郵便の面白エピソードも載っているところです。
郵便制度を作るにあたり、最も頭を悩ませたことが書かれています。
組織をどう作るか、ポストをどこに設置するか、そういうこともあれこれ思案するところなのですが、そういうことを抑えて、はるかに大きな難題として目の前に出てきたのは、「貼った切手を再利用されないために、どうしたらいいか」ということでした。今の私たちは生まれたときから消印が生活の中にあるので、「なあんだ」となりますが、初めての取り組みは、概してこういうちょっとしたところで行き詰まりが生じます。

前島密は消印に自分で気づくことはありませんでした。郵便制度の視察のためにヨーロッパに向かう船の中に、郵便ポストがあり、船長にその仕組みを教わった時に、消印も知ることができました。その時、「そういえば、見た切手はどれも黒く汚れていた」と思ったそうです。
消印を見ていても、それが再利用防止の策であるとは前島密をしてもわからなかったのです。

また、郵便ポストには「郵便」と書いてあるのですが、この熟語にまだ一般人のなじみがありません。また、それが何のためのものか知らない人もいて、その漢字から「垂れる」「便」と読んでしまい、「垂れべん、ああ雪隠か」と小用をたすところと思ってしまったそうです。しかしながら、それにしては穴の位置が高すぎると思い、行動には移さなかったそうです。
これもわかるような気がします。

さらに、配達人が役所に郵便物を届けると、役所の人が本人不在だから、「本人が来るまで待て」とご指導が入ったそうです。場所に届けるというルールが敷かれていたのですが、それが行き届いていなかったそうで、これでは配達人は仕事になりません。当時も、当時なりの働き方改革を進めなければと強く思った配達人がたくさんいたのだと思います。

また、この続きを読んで面白かったところを書いていきたいと思います。

明治初期の面白さは載っていませんが、下の3冊には算数の面白い教え方が載っています。