【横山験也のちょっと一休み】№.3793

今回は、5年生で学ぶ算数の面積の話を一つしましょう。

面積の基本は正方形です。
例えば、1辺が1cmの正方形の広さを1㎝と決めて、これを単位として面積を求めていきます。すると、ありがたいことに、いろいろな図形の面積を求めることができるようになります。

このことは、あまりに当たり前で、何の味わいもなさそうなのですが、よくよく考えると、これってかなり驚異的な思考と思いませんか。
それまでは直感的に、恣意的に、主観的に広さを把握していたのですが、面積を学んだ人同士であれば、その広さを共有できるのです。寸分の狂いもなく、互いに了解できます。
しかも、学んだ人の国籍だの人種だのを問いません。どこの国の人とも了解し合えます。
ちょっと大げさに言えば、国際人への道を歩んでいるとも言えます。

さて、その面積ですが、皆さんは台形の面積の求め方をご存じですよね。
教科書にもしっかり出てきています。
台形の面積=(上底+下底)×高さ÷2

ところが、書棚にある昭和15年の家庭向け算術書には、ちょっと違う公式が出ています。

1/2×(両底の和)×(高さ)

何とも言えない面白さがありますね。
分数の「1/2」は、どう考えても「÷2」の方が分かりやすいです。
ですから、
両底の和×高さ÷2
と改めてみると、この「両底の和」という言葉に、なかなか乙なものを感じてきます。

分かりやすから言えば、「上底」「下底」の他に、「両底」がでてくると、ちょっと厄介度が増します。
そこが気になると、この表現より(上底+下底)の方が、わかりやすいよね、となります。実際に、「和」なんて書かれても、その「和」の意味を忘れていたら面積を求められなくなります。

一方で、「両底の和」には、足す順番が規定されていません。上底と下底、どっちを先に書いても問題ありません。上底+下底でも下底+上底になっても、そこは問題になりません。「和」だからです。

(上底+下底)では、その順番が決められてしまいます。ですから、上底が3cmで下底が5cmだったら「3+5」と書けば〇ですが、「5+3」と書いたら、どうでしょうね。先生によっては×にしますよね。一言、「逆だよ」と赤ペンで書いて、〇にする先生もいるかもしれません。
下底+上底の順に書かれた答案には、ちょっとした難色を感じてしまいます。公式が唯一の基準の見方になっているからです。

昭和15年ごろには、上底と下底はどっちから足しても問題なかったようなのですが、今は順番が明記されています。
「表記のわかりやすさが計算の仕方を縛る」という珍しい現象を起こしたのでしょう。

ところで、クラスに30人も子供たちがいれば、授業中に(下底+上底)で式を書いてしまう子が出てきても不思議はありません。
もし、そう書いている子を見たら、いきなり「違うよ」と指摘するのもいいですが、子どもたちの思考をのぞいてみてるのもいいものです。

子どもの思考を重視する先生は、「どうして、この式にしたの?」と聞いてみたくなります。
問われれば、子どもは子どもなりに「だって・・・」と思い始め、言葉にしてきます。
例えば、プリントを180度回転させて、「だって、こうすると上底がこっちになるから」とでも言ってくれたら、これは素晴らしいです。回転移動をしても、図形は保存されるというところをきっちりと利用しているからです。
こんな風に、「だって・・・」を引き出すことは、論理を引き出すことになります。
その「だって・・・」が納得できれば、なるほどと感心して〇を付けることになります。

また、この昭和15年の話をしてあげるのもいいものです。
そうして、「これ、80年90年前のやり方だよ。いいねぇ。」などと、算数にも歴史があるということを感じさせることができますね。
そうして、取ってつけたように「故きを温ねて新しきを知る もって師となる」と話して、「君は、先生になる素質があるのかも」とでも付け足して話したら、その子も悪い気はしないでしょう。

算数にも歴史があるので、子どもたちの向学心を高めるようなちょっとした話をしてあげるのも、いいものです。

今回の本は『母の算術』(武井俊一郎著、ダイヤモンド社)です。

下は、算数の授業のアイディアを満載した、ちょっと面白い本です。
是非、お読みいただけたらと願っています。

これ、当たり前すぎることですが、かなり高級な思考なのです。
面積は平たく言えば、広さです。広さがどの程度かは、手振りや比喩などを使って、あれこれと表現できます。この感覚的な見方、主観に頼る見方から離れて、