右の画像,本の表紙ではありません。中表紙です。
日本古典全集の中の『古代数学集(上)』(昭和2年,非売品)です。

内容の話しの前に,編纂・校訂の方のお名前が,いいですよね。与謝野晶子が左端にいます。
右端にある与謝野寛は,あの有名な与謝野鉄幹の本名です。

文学系の本かな,と思いますが,江戸時代初期の代表的数学書,「割算書」と「塵劫記」が載っている本です。それも,有り難いことに,今の時代の私にも読める漢字・平仮名に直してくれています。

「塵劫記」は類書も多く,だいだいこんな風だというのは良く伝わっているのですが,「割算書」はなかなかお目にかかれません。
購入を決めたのも,「割算書」が載っていたからです。

「割算に懸けて早き分」という章があります。
次のように記されています。
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一,
十二半に割る時八の声にて懸け申候。又十二半を 十二半を懸け申候時,八にて割り申候。是れ早き算にて斯くの如く善し。
二つに割る物は五の声を懸け申候。二つを懸け,代に五にて又割るも善し。

一,
二十五に割る物は四の声を懸けて好し。二十五を懸け申候物は四の声にて割りても善き。斯くの如く懸けても好し。
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12.5で割るなら,8倍した方が簡単だよ,ということです。
÷2をするなら,5倍しようよ。
25で割るなんて,チョイと大変だから,4倍して考えましょう。
そんな内容です。

この本に載っている「割算書」が出たのは,1622年です。「塵劫記」はその直ぐ後の1627年です。
塵劫記の爆発的なヒットを考えると,この時代には計算がかなり庶民の生活に浸透していたと考えられます。ということは,お金を使って物を買う習慣が広まっていたと言うことです。

でも,そのちょっと前の室町時代。その頃には,わり算ができる人がほとんどいなかったと考えられています。思うに,商店が未成熟だったのでしょう。

かけ算の答えを「積」。
わり算の答えを「商」。
どうしてこういうかを考えると,この言葉は商人から生まれた言葉だと考えざるを得ません。

店の旦那は,品を作り手からたくさんまとめて買い付けます。
買い付けた品は,一端,店の敷地のどこかに積みます。
総数を数えるとき,かけ算を多用します。「積は?」という言葉が生まれるのは自然なことです。

買い付けた品は,小分けして売ります。
それこそが,「商い」です。1個当たりの値段を考えるには,わり算が多用されます。「商う値段は?」となるのも,自然です。

こういった計算をするときに,÷25とか÷125の時には,ササッと計算する方法があるよと伝えたのが,「割算書」です。

今の小学校でも,工夫して計算する勉強をします。
25×4=100
125×8=1000
「割算書」を応用しているような形が4年生にちょこっと出てきます。

その勉強に役立つソフトをもっと算数サイトにアップしました。「ヒント」ボタンもなかなか良い感じに作れています。
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