【横山験也のちょっと一休み】№.2664

■ 『草枕』を再読 ■

夏目漱石の『草枕』をこの年になって読んでみたのですが、この作品には驚かされました。
話の展開が私の脳の持つつながりの限界を超えています。
夢の中の意味不明な話の展開に近いものがあり、同じ文庫本の中に収録されている『夢十夜』の文字が重なり、草枕というより、夢枕という展開の変化を持っている感じました。
そう思いつつも、枕の文字があるので、すでに夢をそこに内包していることも考えられ、草枕なのかと思い返しました。
とくに、草はなびくので、そのなびきが展開を言い表しているようにも感じられ、なるほど感の高いタイトルと思えています。

草がなびくとなると、君子に民がなびくことを風と草に例えた世界感にもつながりそうで、草枕に微妙に感じるモチーフも、その風に似たようなものに思えています。
注釈には「非人情の天地」がモチーフであるように記されており、それを再読時に読み、解説を書く人もさすがな世界にいるように思いました。

この『草枕』を読む直前に、数学の一般書を読んでいました。
そこに、ピラミッドの高さを、棒の影を頼りに計ったというタレスの話が出ており、図も記されていました。
その図を見たときに、ピラミッドの高さを計測したタレスも相似の考え方を自在にこなして、現実世界に用いるすごみがあるのですが、ピラミッドを作った人、特に設計をした人は計り知れない能力の持ち主と思えました。

言うなれば、『草枕』はピラミッドであり、それを読んでいる私はその前を通る観光者。
注釈を書いた小田切進はタレスなのだろうと思います。

少し、気を落ち着けて『草枕』を再読しています。
頭が面白いほどめぐる本です。