【横山験也のちょっと一休み】№.2995

長年、気にはなっていましたが、その存在が私には全くわからなかった辞典があります。
戦前の雑誌の付録としてついていた辞書です。
しかも、主婦目線でまとめられている珍しい辞典です。
その辞典が売り出されていたら、なんとかして入手したいと思っていました。
しかしながら、ひっかりどころが無く、結局はすっかり忘れていました。

そうして、今年のお正月。
画家の「久世とき子」が気になり、あれこれ検索をして調べていたときです。偶然、辞書の名前が分かりました。
『家庭百科重宝辞典』です。
雑誌の付録として6か月連続してつき、結果、全6冊の家庭向け百科辞典となっています。

これを付録として付けていたのは『婦女界』という雑誌で、主婦の皆さん向けの雑誌です。ですので、小学生のお子さんをお持ちのお母さんもその読者となっています。
懇談会に集まってくださるお母様方が読者となっている雑誌ですから、この辞典は主婦目線での編纂となります。
保護者の方々の目線は教師としては気になるものがあります。
と言う思いがあり、この辞書が気になっていました。

では、一つ、その中味をご紹介しましょう。

「エンコ」という言葉が見出し語として出ています。
「車の故障か」と思ったのですが、大違いでした。
わずか2行ですが、ご覧のように驚きの内容が記されています。
「不良少年達の用語」とここまではっきり書いているところに驚かされました。

この解説文を読むと、浅草公園が元気過ぎる少年少女のたまり場だったのかなと思えます。
新聞記者が記事の種を「ネタ」と呼ぶように、少年少女もちょっと斜に構えて、あるいは背伸びのつもりか、「エンコ」と洒落てみたのでしょうね。
いつの間にか、そのエンコが辞書に載るほどに使われるようになったのですが、残念ながら今の時代には誰一人として使っていません。

エンコ時代の浅草公園に行って、過ぎる少年少女の姿を見てみたい気持ちになりますが、ネットで調べたら浅草公園は戦後浅草寺の所有になったのですが、今はもう無いとのことです。

普通の辞書の解説では、ここまでのわくわく感はなかなか出てきません。普通は書かないであろう内容もこの辞書には載っています。
例えば、「遠足の心得」が見出し語として立っています。
でも、「遠足」は見出し語として無いのです。
さすがお母さま目線です!
お母さま方にしてみれば、遠足そのものはわかっているのですが、では、実際に我が子が遠足に行くことになったら、どう対応したらよいのか、そこが気になりますよね。それがしっかりと載っています。
さすがのさすがの大さすが編集です。

昭和初期のお母さま方の目線の世界が気になる先生はお手元に1セット置いておくのも良いのではないかと思います。

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