【横山験也のちょっと一休み】№.2840

算数が好きで、日本も好きで、ちょっとレアな話も好き!
という先生向けの話を一つ。

先日、小数や小数点を「奇零」とも呼んでいた明治頃の話を書きました。
その「奇零」と似た言葉として、「有奇」という言葉があります。
江戸時代にはよく使われていたので、明治中期ぐらいまでは日常でも使う人がいたと思います。

その使い方を『本朝度量権衡攷1』から2つ。
・六升八合有奇
・二升五合八勺有奇

これを少し今風にすると、「6升8合・・・」「2升5合8勺・・・」となります。

整数では・・・は用いられないので、小数に直して表すと、
「6.8升・・・」
「2.56升・・・」
という具合になろうかと思います。

要するに、「有奇」は「はした」「あまり」ということです。

念のために、辞典などで調べを入れました。
戦前の国語辞典で調べたのですが、これが全滅。載っていません。
次は、漢和辞典。
漢和辞典で熟語を調べるには、頭の漢字を検索します。
すると、その漢字が頭につく熟語がどっさり出てきます。

手近なところで、『字通』で「有」を調べたら、「有奇」が熟語として載っており、「はした」と出ていました。

さらに、ダメ押しで調べを進めます。
まず、この「有奇」ですが、これは漢文なので、日本語で読むと「奇が有る」となります。
調べるべき漢字は「奇」です。

大漢和辞典には、訓読みの一つとして、「あまり」と出ています。
訓読み「あまり」の事例としても「有奇」があり、「有奇」は「あまりがある」とらえられます。
また、『易経』の繋辞上伝のフレーズも事例として載っています。内容を岩波文庫の『易経(下)』で調べると、筮竹(ぜいちく)で占ったとき、数え残る竹があり、その数え残りを「奇」を用いて表現していることがわかります。
奇には、「あまり」とか「のこり」という意味があるわけです。

ということで、「まだ、余りがあるよ」という場合に「有奇」を使っていたことがよくわかりました。

今は、死語となっている「有奇」ですが、江戸時代から明治中期ごろまでは使われていた算術の用語と知ると、そういう言葉もあったことを伝え残したくなります。


この『「夢中で算数」をつくる教材アイディア集』には、こういった古い時代の算術に関することは、なにも載っていませんが、

・子ども達が面白がる「小数点君

・小数の仕組みがあっという間にわかる「隠れ0.1

・小数の足し算のひっ算への納得度が急上昇する「お金つき数カード

などが紹介されています。
算数の愉快な変わり種の教材がたくさん出ているので、若い先生方には珍しい本のようで、喜ばれています。

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