【横山験也のちょっと一休み】№.3812
算数の話を一つ。
高学年の子に話すと不思議がる面白い「賭け事」の話があります。損するか、得するか、という話です。
ちょっと時代がかった語り口にしてお話ししましょう。どうぞお楽しみください。
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算術奇談『勝負(ジャンケン)の勝ち目、算数の妙理』
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そもそも人の世の理というものは、一見、平穏無事に見えて、その実、奇妙なるからくりが隠されているものにござります。
ここに江戸は八百八町の一角、威勢のよい声で、道行く人々を呼び集める男がおりました。名を山田の主人と申します。
「さあさあ、お立ち会い! これより些した手合わせ、じゃん拳の勝負をいたそう。損を得に変えたい御仁、知恵に覚えのある御仁、どなたでも寄ってらっしゃい!」
これを聞きつけ、人混みをかき分けて飛び出してきたのが、町でも威勢のよさで知られる三吉、通称「三ちゃん」にござります。
「ようし、その勝負、おいらが引き受けた! 腕が鳴るぜ!」
山田の主人はニヤリと笑い、集まった野次馬一同へ向かって、ことの仔細を厳かに語り始めました。
【勝負の定め】
一、まず、どちらか一方が元手として「金一両(千文)」を座の真ん中に差し出すべし。
一、しかるのちに、じゃん拳を二度交わすものとする。
一、もし、元手を出した側が勝てば、相手からその手元の金の「半」を勝ち取る。
一、もし、出さざる側が勝てば、座にある金の「半」を削り取る。
一、勝負は終始公明正大。後出しや、いかさまの類は一切無用、お天道様が見ている通り、勝つも負けるも五分五分、双方平等の大勝負なり!
さあ、これを聞いた三吉は腕組みをして考え込みました。
「勝てば半分増え、負ければ半分に減る……。どっちに転んでもお互い様、五分と五分の天下の回り持ちだ。元手を出す側になろうが、出さぬ側になろうが、損得なしの同じことに違いねえ!」
見守る群衆も、「そりゃあ、どっちを選んでも同じこった。運を天に任せるっきゃねえ!」と口々に囃し立て、場は大いに盛り上がります。全員の心が「どっちでも同じ」と一つに傾いた、まさにその瞬間こそ、算術という名の奇術が幕を開ける合図にござります。
「さて、お前さん、一両を『出す方』と『出さない方』、どちらを選んでも同じだと、そう思うかね?」
「当たり前よ、どっちだって同じことよ!」と三吉が胸を張ると、山田の主人は人差し指をぴっと立て、天の理を解き明かすがごとく高らかに告げたのです。
拳を交わす回数は二度。それゆえ、天がもたらす運命の道筋は、次の四通りにございます。
金一両(千文)を出した側からしたら、こんなそろばんになる。
1. 勝ち・勝ち(大勝利)
元手の千文が、一度目の勝ちで一・五倍(千五百文)となり、二度目の勝ちでさらに一・五倍!
算段すれば、なんと【二千二百五十文】の大福徳!
2. 勝ち・負け(一勝一敗だが)
一度目の勝ちで千五百文となるも、二度目の負けで半分に。
算段すれば、手元に残るは【七百五十文】。
3. 負け・勝ち(一敗一勝だが)
一度目の負けで五百文に減るも、二度目の勝ちで一・五倍。
算段すれば、これも同じく【七百五十文】。
4. 負け・負け(大敗北)
一度目で五百文、二度目でさらに半分となり、
手元に残るは無惨にも【二百五十文】。
「これぞ算術の隠し網! よしなに見極むべし!
金一両を『出す側』に回れば、元手が増えて勝ちとなるのは『勝ち・勝ち』の、わずか二割五分(一通り)のみ!
対して、金を『出さない側』で待てば、相手の金が目減りする(=自分が得をする)道筋は、一勝一敗の二つと二敗の一つ、合わせて七割五分(三通り)にも及ぶのだ!」
「……ああぁっ!!」
三吉も、群衆も、一斉に天を仰いで声をあげました。
「勝ち目の数」の圧倒的な違い! ズルもいかさまもない、お天道様に誓った五分五分の勝負の中に、これほど知恵の仕掛けが隠されていようとは!
「へええっ! こいつは驚いた! 算数ってのは、お釈迦様の手のひらのように、すべてをお見通しなんだねえ!」
三吉は、この世の不思議な数理のからくりに大興奮。集まった江戸の人々も、驚きに皆一様に満面の笑みを浮かべ、得心を胸にそれぞれの家路へとついたのでございます。
あな、おもしろや、めでたし、めでたし。
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この話は載っていませんが、楽しいアイディア教材がたくさん載っています。
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