【横山験也のちょっと一休み】№.3176

江戸時代の親孝行の話を一つ。
「孝」という漢字を使った話です。

この話をする前に、「孝」は普通、音読みで「こう」と読むことぐらいしか知りません。
大きめの辞書で調べると、訓読みとして「おやおもい」と載っています。

その「孝」の漢字には、「子」が入っていますので、意味的には「親思いの子」となります。「孝」は徳の本ですので、それを実際に行っている子は、大きな徳のある道を歩んでいることになります。

「孝」は、上が「おいがしら」で、下が「子」です。
親思いの子という意味として捉えると、「おいがしら」は「親」ととらえることができます。

さて、次の漢字を御覧ください。
この漢字を見て、どんな教えが込められているか、わかりますか。

パッと見て、ちょっと変だなと感じます。
「おいがしら」部分が左右逆転しているからです。
そうなんです、親が逆転している、つまり、親が普通の状態でないということを、左右逆転にすることで表しています。

時は江戸時代です。
着物文化ですので、親を意味する「おいがしら」の斜めに走る一画を、着物の衿(えり)と見立てることも、すんなりできました。

斜めの一画を衿と見立てると・・・
普通の「孝」は「右前」の衿と見えて来ます。
上の画にある反転した漢字は、その逆、「左前」の衿と見えます。

左前は、着物の着方とは別に、取り組んでいることが順調にいかない状態、商売が傾き始めた状態など、悪い方向に傾いている意味も持っています。

そういう見立てをして、この漢字に次のような意味を持たせていました。

・たとえ、親が左前になったとしても、ただ孝行をするのが子の道です。

親の仕事がうまく行かず、食うや食わずになったとしても、そのことに左右されずに、孝行をすることが大事ですと教えているのです。また、そうせざるを得ないことになったとしても、実は、それが大きな徳のある道を歩んでいることになるのです。


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